「時計と同じ向きに、2回まわします。」



【質問】

「お茶碗は何回まわすのですか?」

【答え】

「時計と同じ向きに、2回まわします。」

「正解」があると安心していただけると思うので、誤解を恐れずに答えを示しました。これは、裏千家の作法ですから、他流派では向きや回数が異なる教えもあります。つまり「絶対にこれでないといけない!」という正解があるわけではないのだ、と私は考えています。ここでいう「まわす」とは、「ぐるりん!ぐるりん!」と360度×2回まわすことをを指しているのではありません。自分に向けられているお茶碗の正面(=一番いいところ)を、2回動かすことで90度ほど左寄りにずらす、ということです。

 お茶碗をまわすという所作には理由があります。形式的に「1回、2回、はいオッケー」ということではありません。お茶の場には必ず「もてなす人」(=亭主)と「もてなされる人」(=客)がいます。亭主と客が「どうぞ」「ありがとう」と心をこめてやりとりをするのがお茶の世界です。主客が互いに、そしてまた客同士も互いに、思いやりの気持ちを持ってその場を共にすごすことがもっとも大切です。茶道ですから「(お茶碗にはいった)お茶」という形あるものを通じてその気持ちのやりとりをするのです。

 亭主は、今日招いたその客のために心を込めて茶碗を選びます。そして心を込めてお茶を点(た)てます。どうぞ、と茶碗を差し出すとき、選んだ茶碗の一番いいところを客に向けてだします。絵が描いてあったり、色が素敵だったり、その「いいところ」は感性によって異なる場合もありますが、亭主が「どうぞ」と差し出すその場所がお茶碗のいいところ(=正面)なのです。

 差し出された客の方は、「正面からどうぞ」という亭主の気持ちをうけとり、「いえいえ、もったないことですから、私はちょっと脇からいただきましょう」という意味でお茶碗を90度ほどまわして正面を避けるのです。亭主に対する敬意や、謙譲、遠慮の意味がこめられているわけです。ですからここで一番大切なのは、「私は正面を避けていただきますね」という「気持ち」であって「まわす」ことではないのです。

 「正面を避ける」という気持ちがあれば、どちらにまわしても、何回まわしても、かまわないと私は思っています。(360度まわしてしまって、正面がまた自分のところに戻ってくるのは困りますが・・・)また、緊張のあまり、「まわす」という所作を忘れてしまうことも、慣れない方にはあるでしょう。作法を忘れるほどにお茶をいただくことに集中し、亭主の気持ちを受け取ろう、という意気込みがあるのなら、お茶碗をまわさなかったからといってなんの不都合がありましょうか。ましてやまだ「お茶を習おう」と決めて入門されたわけでもないみなさんが、そこで気後れを感じられることはなにもないと思います。ただ楽しく、おいしくお茶を召し上がっていただければいいのです。

 もしいずれ入門してお稽古を重ね、お茶をいただくことに慣れていけば「時計と同じ向きに2回まわす」ということは自然にできるようになります。覚えなくちゃと意気込まなくても、いつの間にか身につき、間違える心配などいらなくなっていきます。「何回まわすか」は気になさらずに、どうぞお茶と親しみ、楽しんでいただけたらと心から願っています。

 なお、流派によっては「お茶碗をまわさず、正面を向けてくださった亭主の気持ちをそのままいただく」という作法もあるそうですので申し添えておきます。


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Last Update 2020/8/2